育てること

平らに過ぎていく時間にも身を委ねつつ・・

 

畑で作った作物を取られたのはよほど悔しかったらしく

親子は怒った。

 

息子は、本職の仕事が少しだけ暇になったので

空いた時間を父の仕事を手伝うことで

どうにか若くして築いた家族を養おうと思った。

父は自らの手で田畑を耕し、種を蒔き、時間をかけて作物を育てることで

 

家族の為に自分の家で食べても良し、

それを売り、多少なりとも収入を得られれば良し、

新鮮野菜を買う人が喜んでくれれば良し、

そうやって野菜を育てることで何かを感じてほしい、何かを得てほしい

と考えていた。

 

ちゃんとビニール袋を用意してあり、たくさん獲った野菜が

その中に入っていた。

問うと謝りもせず開き直った。

そして貧困の中でのその行為かと思うと

ピカピカの車がそうでもないと物語っている。

 

多分謝ってくれさえすれば親子の怒りも収まったでしょう。

罪を憎んで人を憎まずで、許してくれたかもしれない。

人生の苦労を分かち合い、そして野菜を分け与えたかもしれない。

 

愛情と思いと手仕事の詰まった野菜でした。

思い描く未来をよこから取られるのは親子にとって

とても悔しいことだったのでしょう。

 

戦時中を題材にした映画を思い出しました。

鈴木京香さんがお母さん役で出演した映画です。

息子たちを戦争で取られるごとに木を植えます。

無事に戻ってくるように息子たちの代わりのように育てます。

語りかけます。

大きな木になり、帰ってきてほしいという期待や

半面、悲しみや悔しさの中でも見守り続け、育て続けて、

お母さんが亡くなってからも木は立派に建っています。

日差しの強い日には木陰になったり、

なにかの木材として人の役にたつこともできるでしょう。

 

平和な世の中になりました。

 

どうか素敵な生き方を素敵な背中を

若者たちや後世に伝えてくださることを

切に願います。

 

筆 一月三舟